「あ、…ゆ――」

「由貴っ」


名前を呼ぼうとした矢先、杏奈さんが由貴君に飛びついた。

飛びついてきた杏奈さんを反射的に受け止めて、抱きしめる由貴君。

抱き留められた杏奈さんはそのまま由貴君の胸に顔を埋めて、制服を掴んで泣き始める。


ぎりっと、胸が軋んだ。


「うっ…ゆ、きぃ…っ」

「…もう大丈夫だから。だから泣くな。俺がいるから」


さっきよりも、杏奈さんを抱き寄せる由貴君。

その腕は強く、強く、杏奈さんを安心させようと抱きしめる力を強くしていく。


ちくちくと、じわじわと、浸食されて、蝕まれる。


「…和泉、お前」


気まずそうに視線を逸らしながら話し出す由貴君。

彷徨わせた視線はなかなか私へと辿り着いてはくれないまま。


「お前が…」

「…。」


何も言わない私に由貴君が何かを確信していく。

きっと、その確信は私が何を言っても揺るぎはしない。


その腕は、温もりは、貴方の全てはきっと彼女のために。

どれも、全部、私のためじゃない。


「…い――」

「――はい、ストップ」


私の名前を呼ぼうとした由貴君を遮って、誰かが制止を掛けた。

その際、私の視界を片手で覆い隠しながら。