私、馬鹿なんでしょうね。

だからこんな事になってるんですよね。


―バシッ


「アンタ、やっぱり由貴のこと好きでも何でもないんじゃないっ!!」


頬に走る鋭い痛み。

叩かれた頬がじんじんと熱を持って、痛みを訴えてくる。


目の前には、目に涙を溜めて、怒っている杏奈さんがいる。

興奮しているのか、肩で息をしている。


「早く、別れてっ!」


言った瞬間に涙を流す杏奈さん。

ぽろぽろと。

瞳に溜めていた大粒の涙が、堪えきれずに、こぼれ落ちる。


「アンタが居なければ、幸せだったのにっ!」

「っ、」


なに、それ。


どうして貴女が泣いているの。

どうして貴女が怒っているの。

どうして、なにもしなかった貴女が、私を責めるの。


「…私、がいけないの?」


出てきた声は、自分がいつも聞いていた声とは違って、自分でも驚くほどに低かった。

杏奈さんが、一瞬だけ怯んだように見えたけれど、また直ぐに気を取り直して、目に涙を溜めて睨んできた。


「当たり前じゃないっ!アンタが居なければ、私達は――」

「――杏奈?」


杏奈さんの声と被って耳に届いたのは、由貴君の声だった。

―あぁ、久々に聞いた気がする。

そう思うと、途端に切なくなった。


「なんで、杏奈が泣いて…?」


その一言にはっとする。

今この場に居るのは由貴君と杏奈さん以外に私しかいない。


「まさか、…和泉?」


信じられないといでも言うような声が、その場に響いた。