「千佳君は、意地が悪いよね」

「…」


するっと、滑った自分の本音。

それはそれは、もう、するっと。


―やば…っ!!


「へー?そう?ふーん?」

「え、いや、あの、ですね…っ!」


しどろもどろに、言い訳をしようとする。

しかし、上手い言葉が見付からず、かみかみで何を言っているのかわからない事を言っている。

私のバカーっ!!


「でも、お前にだけだぜ?」


思いもよらない台詞。

つり目気味の双眸が、甘く光る。


そのせいで、言葉の意味を一瞬、間違えそうになった。


「な、嬉しくな…っ!」

「なんで?いいじゃん。"特別"で」


少し、くせのあるイントネーションで特別の部分を囁かれて、耳を赤くする。


「だ、な、はぁっ!?」

「なに言ってんのお前」


はは。声を出して笑う千佳君。

その姿に、声に、彼の全てに目が離せなかった。


「い、いきなり千佳君がヘンなこと言うから…っ!」

「そう?」


そう言って、席を立つ千佳君。

元々あまり無かった距離を詰めて、私が座る机の前に歩み寄った。


―ガタッ…

私の目の前にある机を片手でゆっくりと退けてから、すっと、千佳君が髪に空いている方の片手を伸ばしてきた。

そのまま千佳君は私の髪を軽く梳くと、適当に一房、手に絡め取った。

身を屈めて、千佳君は先程よりも距離を無くすと、絡め取った私の髪を自分の口元へと運んだ。

目の前で起こった光景に、これでもかって位赤面した。


「…でも、いきなり、じゃねぇよ?」


これ以上一緒に居ると、彼に魅せられてしまいそうで、勢い良く席を立って彼から逃げ出した。


「千佳君のスケコマシーッ!!」


廊下に響いた私の言葉に、千佳君が吹いたなんてもちろん知らない。