杏奈さんが居なくなった後、体から力が抜けた。

へなへなと、その場に座り込む。


「怖かった…」


怖かった。

彼女が、何も言えない自分が。

杏奈さんはあんなにも真っ直ぐで、自分に素直なのに私は全然自分に素直じゃない。

それどころかひねくれていて、素直なんてかけ離れている。


「…馬鹿みたい」


別れてと言われたとき、強く嫌だと否定すればよかったのに。

その時自分が思った事をちゃんと伝えればよかったのに。

それなのに押し黙って、ただ怯えるだけしか出来なかった自分。


怯える暇があるなら、伝えろよって話だ。


「そうだな」

「っ!?」


ぽつりと独り言として呟いた言葉に、何故か返事が返ってくる。

驚きのあまり、声が出せなかった。


「な、ななな…っ!?」

「菜?」

「ち、違うっ!!なんで此処にいるのっ!?」


なんともすっとぼけた返事をしてくれた千佳君。

しかもその時の表情はちょっぴり真面目で、冗談だなんて言えなかった。


「探したからに決まってんだろ」


さも当然とでもいうように言い放つ千佳君。


「ほら」


溜息と共に差し出される彼の手。

手を取ろうにも、杏奈さんとのやり取りで、何故だかいけない気がした。

千佳君のことは、何も触れていないのに。