「私の方が、好きなのに…っ!」


じくり、じくりと胸が軋む。

彼女の言葉に、胸が、心が、軋んで悲鳴をあげた。


「わ、たしは…由貴君が、好きだから…別れ、ない…っ」


それでも、別れたくない。

彼から別れを切り出されたのなら、仕方がないかもしれない。

でも、これは違う。

これは杏奈さんの願望であって、私のでも、由貴君の願望でもない。


「…いいわ」

「え?」


あっさりと、食い下がった杏奈さんに驚いて、間抜けな声が出た。

先程まであんなに剣幕だったのに、もうそんな雰囲気を微塵も見せない態度だ。


「別れないなら、奪うわ」


しかし、それは表面上だけで。

彼女の双眸は、欲望にぎらついていた。


絶対に奪ってやる。アンタなんかに渡さない。


そう目が言っている。

雰囲気で、体全体で伝えている。


自分が消えてしまいそうなほど、彼女は自分に素直だった。