誰もいない教室に連れ込まれる。

さっきから、嫌に心臓がばくばくと音をあげている。


「ねぇ、どうしてさっきの質問答えられなかったの」

「え…」

「どうして」


さっきの質問を聞かれていた事に驚くよりも、射るような鋭い声に怯える方が先だった。

―怖い。

何とも言えない不安が身を包む。


「そ、れは…」

「好きじゃないから?」

「え?」


一体何を言っているのだろうか、この人は。

私は好きな人としか付き合わないし、それ以上のこともしない。

それに、私が彼を好きじゃないなら、あんなに彼との時間を惜しんだりしない。

そう思うのに、声が喉に張り付いて剥がれない。


「なにそれ、最悪」


突如降り注がれる、冷たい責め立てる声。

杏奈さんの表情は冷え切っていて、双眸は怒りに満ち溢れていた。


じりっと、近付かれる。


「アンタ、そんな軽い気持ちで付き合うなら別れてよ」

「ち、ちが…っ!」

「今更否定したって遅いわよ。…別れて」


確かに、今更だ。

だけどこの気持ちが軽いものじゃないのは事実だ。


「い、いや――」

「ふざけないでよっ!私の方が、アンタなんかよりも由貴を思っているっ!!」


大きな声に、肩が震えた。


「ふざけてなんか、…」

「充分ふざけてるじゃない。好きじゃないなら別れてよ」


―ばんっ!

壁に手を叩き付ける杏奈さん。

それは、紛れもなく脅しだった。