ピクピクともんどりを打つ男は動かない。


人が密集しているこの場で倒れているのは、邪魔以外の何ものでもない。


しかし、特に男を片付ける必要はない。


この場にいる人間の足蹴りで自然と男の体は脇にやられていった。


道路でゴミが、よく通る中央ではなく脇に多いのと同じだ。


ともあれ、男は始末した。


これで心置きなく……


その瞬間、肩に重い衝撃が走る!!


何が起きたのか把握出来ないまま、脇腹にも同じ痛みを与えられる。


膝が折れ、崩れゆく僕は見た。


背後にいる厳つい男が、両の拳を合わせて振るっているところを。


僕はダブルハンマーをもらったんだ……


致命的な油断だった。


男を倒しただけで満足した僕は、忘れていた。


周りは全て敵だということを。


まさに第二次世界大戦末期の日本のように。


僕を倒した厳つい男は、ついに僕ら皆が欲する物を手に入れる。


高々と手を上げて、勝利の証したる『それ』をかがげる。


厳つい男の手には、手に入れたばかりの『パン』が握られていた。


「負け犬ども……、貴様等の舌は、もはや満足することは敵わん。残飯を手に、早々と立ち去るがよい」


厳つい男の勝利宣言を聞きながら、僕はうなだれていた。