目の前の男が拳を振り下ろす。


狙いは間違なく僕の脳天だった。


しかし、僕とてむざむざ脳細胞を殺させるわけにはいかない。


これ以上、頭が悪くなったら進級が危うい。


どうでもよいことを考えつつ、横に移動すると男の拳は空を切った。


「ちぃ!!」


悔しそうに顔を歪ませる男を見て、僕は「楽勝だ」と思った。


この場において、一度の攻撃が外れただけで悔しがるようでは生き残れない。


そして、それが分からない奴は大したことがない。


「フッ!!」


僕は軽いジャブを繰り出す。


簡単に避けられる攻撃であり、実際に男は余裕で躱した。


僕の攻撃は相手を誘うための、いわゆるブラフだ。


思惑通りに男はストレートを放ってきた。


先ほどと同じように横に移動し、男の拳を見送る。


違うのは、僕の足が男の足を絡めとっていたことだった。


勢いを殺し切れなかった男は地面へと吸い込まれていく。


汚い床とのキスを遂げた男は昇天していた。


あまりにも気持ち良くて痙攣しているようだ。