「ケン、俺やめるわ。」


ケンは妙に背が高く、それでいて頬がこけていて細かった。
まるで骸骨か死神のようで俺はいつもそうやって馬鹿にしていた。

年はだいぶ上なんだろうけど、そういうことを感じさせない人間だった。

それは別にケンが気さくな訳でも、冗談がうまいわけでも、明るい訳でも無い。
寧ろケンは暗いぐらいだった。自分でもよくそう言ってたし。
ただ奴の雰囲気がそういう風にさせるのだと思った。


そのケンに、俺はもう薬を止めるということを伝えた。


「もう飽きたか?強いのだったらまだいくらでもあるぜ。」

「いらねえ。もう本気で止める。」


ケンは何も言わなかった。

正直、ぶっ殺されるかと思った。
止めたらどうなるかわかってんだろうなあ、とかなんとか言われてさ。
小指の一本ぐらい切られるんじゃねえかって。

でもケンは俺の予想を見事に裏切り、特に多くのことを言わなかった。


「ま、いいんじゃね。成長期だしな。」


なんて人事のようにくだらないことを言った。

けれど最後にこう付け加える。


「でも、お前は絶対に戻ってくるよ。俺にはわかる。」


意味深なことを言うケンの表情に鳥肌が立った。
恐怖か、何なのか。

その感情の名前はうまくは言い表せない。




母さんの亡霊は、それからぴたりと姿を現さなくなった。

薬止めた方がよかったんだなーとか思ったりした。


けれど止めた途端に考える時間が増えるようになった。
悶々と考えて、ぼっーとして、それの繰り返し。

母さんがいなくなってから大分時間が経っているってのに、俺は忘れることすら出来なかった。


亡霊は消えても、これじゃ取り憑かれてるのと一緒だ。


その度に俺は煙草を吸って気を紛らわした。



それが単なる気休めなのはよくわかっていたけれど、そうせずにはいられなかった。