奴の名はケンと言って、ある大きな組の一員らしい。
俺は度々そいつから軽めの薬を貰っていた。

使ったが最後、俺は毎回ぶっ飛んで、夢ばかり見ていた。


見る幻覚は毎回同じで、俺はその度に現実から目を逸らし続けた。

鼻から一気に吸えば真っ赤な彼岸花が俺の目の前に広がる。
その花畑の真ん中に母さんが立っていて、手招きするんだ。

“清、おいで。寂しかったでしょう?”って・・・。


でも俺だって薬漬けの毎日を過ごしてた訳じゃない。

どうしようもなく寂しい時だけ使ってただけだ。
あとは煙草で誤魔化した。


ある日俺が図書室にあるベランダでぶっ飛んで伸びてるのを見かねて、シーナが必死で説得してきた。


「お願いだよサボ・・・。ドラッグなんてやめてよ・・・。」


泣きながら言うシーナに逆らうことなんてできなくて、俺はそれっきり薬をやめた。

最初は禁断症状とか、他にもいろいろ辛かったけど、でもシーナの泣き顔を見るよりましかと思った。
今俺がいなくなったら、シーナは壊れちまいそうだったから。

シーナは少し前に恋人を失った。
奴に言わせれば待ってるだけなんだろうけど、あいつが帰ってくる保障なんてどこにもない。
寂しさの絶頂にいるシーナをどん底に突き落とすほど俺は非情じゃない。


まあ、薬にそれほど執着があった訳でも無いし。
正直もう彼岸花の夢には飽きてきた。

母さんだけに会えればいいけれど、決まって彼岸花はおまけのようについてくる。


もうあの赤は見たくない。


忌々しいとさえ思うようになった。




その頃、俺は家を出ることを決心する。

家を出て、バイトでもしてれば気も紛れるかと思った。


もう全てから解放されたかった。


母さんに会いたいと願ったのは俺自身なのに、今ではその亡霊に悩まされてる。



自業自得だ。