「どういうつもりだよ。急患ってどういうことだよ。」


親父は何も言わなかった。

俺が胸ぐらをつかんだ時も、一切口を開かなかった。


「てめえが担当医じゃねえのかよ!!!答えろよ!!!」


そう怒鳴って一発殴ってやった。

頭に血が上ってどうしようもなかった。


「命一つ救えねえ医者がな、名医だなんてほざいてんじゃねえよ!
最期ぐらい一緒にいてやればいいだろ!?くそったれが!!!

てめえが母さんを殺したんだ!!!違うか!?あ!?」


その怒鳴り声を聞きかねて姉さんが割って入った。


「清!やめて!」


まだ親父に食って掛かる俺を、姉さんは体を張って止めた。


「母さんのこと一番に思ってたあんたならわかるでしょ!?こんなことしたって喜ばないって!

それに、母さんの最期ぐらい静かに迎えてあげなさい・・・。」


そう言って泣いた姉さんを見て、俺は握っていた拳を緩めた。

親父は病室に入り、俺はそこにしゃがみこんだ。


母さんに、聞こえちまったかな・・・。
今の会話全部。


「清、わかってると思うけど、一番辛いのは父さんなんだからね。」


姉さんはそう言って病室に入って行った。



そんなの、わかってるよ・・・。

最期を知りつつも駆けつけることさえできなかった親父が一番酷なんだ。


わかってるからこそ許せないんだよ。



親父が母さんを殺した。




全部全部、親父のせいなんだ。