母さんの病状悪化は学校の担任教師の口から告げられた。


「奏芽君、お母様が危篤状態だそうだ。」


キトク。ついにこの時がやって来てしまったんだと思った。


「サボ・・・。」


少し前に仲良くなった同じクラスの椎名が心配そうに俺を見た。

なんでお前がそんな顔してんだよ。
俺は少し吹き出してしまった。


「大丈夫だよ。なんてことねえ。」


そう言って俺は鞄と制服の上着を持って病院へと向かった。

さっきの言葉は母さんの病状に対して言ったのか、俺自身の精神状態について言ったのか。
そんなことはどうでもよかった。

気付けば手が震えていて、煙草を一本吸った。
だっせえ。母親の危篤なんかで手震えてやんの。

けれど気持ちが急いて仕方が無かった。
歩調は自然と速くなり、俺は煙草を捨てて走り出した。


走らずには、いられなかった。



母さんの病状は悪くなる一方で、次に危篤状態になった時は覚悟しておかなければならないと感じていた。

大分前から母さんが死ぬまでの最悪のケースを何度もシュミレーションしてた。
最悪を想像しておけば、多少は気が楽になると思えたから。


でもそんなのは気休めにしか過ぎなかった。


だって現に今、俺はかなり焦ってる。



怖くて足がもつれそうで何度もこけそうになった。



不安で仕方無い。





頼む、母さん・・・。










死なないで。