“リストランテ ボンボヤージュに向かう”には、もうひとつ仕掛けがあった。
七つの時計が、時を告げる。ただ、その音はエーマリリス以外には聞こえない。聞こえてはいけない音だからだ。
その音がエーマリリスに届いた。

一つめの音が門を開ける。
その門を二つめから六つめの音がかけていく。最後の七つめの音は、門の戸締まりをしていく。
ふたつめの音が、エーマリリスを呼ぶ。
「時計が鳴っている・・・。」
この音を聞いても、すぐに信じられない自分がいる事はわかっていた。だからこそ、三つめの音が聞こえる。これで確証する。
「アイワイに・・・アイワイに何かあったのか・・・。」
四つめの音は、その光景を伝えてくる。五つめは声を伝えてくる。六つめの音は広がり、天井に地図を描き出した。
「な、なんと言う事だ。ついに、ついに言術使い狩りがはじまったと言うのか・・・。まさか、ばあちゃんの言った事が本当になるなんて・・・。そんな、そんな・・・。」
ばあちゃんと言うのは、エーマリリスの祖母の事だ。
子供の頃から不思議な力を持ち、その力を使い、いろいろな人々を助けてきた。その祖母が、エーマリリスが二十歳の時に伝えた事があった。

「私たち言術使いはとてつもない過ちを犯したの。それは決してしてはいけない事。それを平然としてしまった。してしまった事は取り返しつかないわ。そして、その代償が未来に返ってくる。たぶん、あなたの子供の世代かしら。気をつけなさい。あなたの家族がいなくならないように。」
真剣な顔をして話す祖母の事を、当時のエーマリリスは馬鹿にして聞いていなかった。
「なんだよ、それ。子供?そんな先の事、わかんないよ。」
少し哀しそうな表情を浮かべた。
「茶化さないで、きとんと話を聞きなさい。」
いつもは優しい祖母からは信じられないくらいに、厳しい言葉だ。ただならぬ雰囲気にエーマリリスも襟を正した。
「はい。」
「とにかく、家族に危険が及ばないように。それだけはきちんと準備して。魔法使いはきっと復讐に来る。それだけは間違いないわ。だから、せめてあなたの家族だけでも守って。エーマリリスの血を守って。お願いよ。」
“魔法使い”と言う言葉に、エーマリリスは反応した。それについて、さらに祖母に聞いた。しかし、祖母は話を濁すばかりで答えてくれない。