夢から覚めると、私は分かった気がした。
「土方くんだ…」
オウリの恋人になって、彼女を殺したカインは、
土方くんだ。
カラーリングと顔立ちは違うけど、
あの目は土方くんのものだ。
「本当に会ってたんだ」
クリスマスの日、私と彼は会っていた。
だからこのゲームが始まったんだ。
「起きなきゃ」
土方くんに呼ばれていたんだった。
面倒臭いけど、行かないと呼びにきそう。
けだるい身体を引きずって、キッチンに向かった。
朝ご飯を食べる時間はない。
学校で食べるために、昨日の残り物をお弁当に詰めて、オニギリも作った。
制服に着替えて、家をでた。
面倒臭いことしてる。
いつもならこんなことしないのに。
生きるために、今は彼との繋がりはつなぎ止めて置いた方がいい。
校門の前に来ると、土方くん達はもう立って服装検査の準備をしていた。
「遅い!」
「朝から怒鳴ったら血管切れるわよ」
「誰のせいだ!10分前行動が原則だ!」
「私は5分前が好き」
「お前の好みなんて聞いてねぇ!」
朝から土方くんはうるさい。
低血圧の私には煩過ぎるくらい。
「直江先輩おはようございます。これを持って、オレの隣に立っていて下さい」
秋田くんが私に紙が挟んであるバインダーとペンを私によこした。
「それに違反者の名前と何がどうダメだったかを記録してください」
簡単に説明してくれた。
「毎週こんなことしてんの?朝練とかあるんじゃないの?」
「そうなんですよ。練習試合も近いっていうのに」
「お前は朝練にさっぱり来ないじゃねぇかよ。直江、お前はスカートが短すぎ、直せ」
秋田くんと一緒に怒られた。
「このくらい普通。猛流がこの方が可愛いって言ってるのに。ねぇ、クマサンもそう思わない?」
秋田くんの後ろに立っている、委員長さんに聞くと
「そうだな。でも、よく気付いたな。言われなきゃ気づかない長さだぞ」
「土方さんやらしい。直江先輩の足をずっと眺めてたんですか?」
秋田くんが土方くんをからかう様に言うと、
「ちげーよ!ばか!」
「直江先輩オレのブレザーを貸しますので足を隠して下さい。土方さん舐めるように見てますよ」
「だから違う!直江も早くスカートを直せ!それに熊じゃねぇからな。藤堂さんだからな!」
土方くんと秋田くんのやり取りも周りは笑って見ていた。
みんな笑っているけど、私は笑えなかった。
だってこれから私は彼を騙して行くに違いないから。
どうしても、土方くんを好きだという気持ちが湧かない。
オウリの気持ちが分かる。
「直江、いつものことだから気にするな」
藤堂さんが話し掛けてきた。
どうやら二人の揉め事を私が作ったと落ち込んでると思われてるらしい。
「あなたの名前知らない」
「そうだったな。オレは藤堂昴(とうどうすばる)だ。お前らと同じ学年だからな」
顔と合ってない名前だと思った。
でも彼の顔は見ているとどこか和む様な気がする。
不景気になると熊のキャラクターが売れるというジンクスも頷ける。
「元気のあることは悪いことじゃない。私はこうやって騒いだことがないから」
私達さんにんは言い争っても淡々としている。
土方くん達みたいに走り回ったりなんかしたことはなかった。
私たちは子供らしさをどこかに落としてきたのかもしれない。
それは多分、私のせい。
「そうか。じゃあこれからドンドンあるから直江も入っていけばいい」
藤堂くんはどこかズレている人だった。
それでもその鈍さにどこか救われた。
制服検査は何事もなく終わった。
私に向けられる女子の不躾な目がウザかったけど、それ以外は何もなかった。
「片付けは直江とオレな」
土方くんは私にバインダー全部等を全部持たせて来た。
「風紀委員会室で良いのね」
面倒臭いと思ったけど、私は素直に従った。
「おう…」
「どうしたの?」
「やけに大人しいな。面倒臭いっていうのかと思った」
「また怒るでしょ。土方くんを怒らせると面白いけど、低血圧の頭にはキツイの」
そういうと私はさっさと風紀委員会室に向かった。
「ここに置けば良いの?」
「おう。放課後に集計するから。チェックした奴らは明日までに直して来いってことになってる」
それまでこれは預かる。
土方くんは生徒手帳を机の上に並べた。
生徒手帳がないと色々不便だものね。
「私はバインダーを片付けると、近くのイスに座った。
オニギリを一つ出して一口口に入れた。
「朝飯食ってなかったのか?」
「低血圧なの。朝一じゃ食べられないから」
タンブラーに入れてきたお茶も取出して、朝食を食べる。
「うまそうだな」
土方くんが呟いたのが聞こえた。
「もう一個あるよ。食べる?」
お弁当袋に入れたもう一つのオニギリを出して土方くんに差し出した。
「お前の朝飯だろ。オレは食ってきたから」
「朝はこれだけで良いみたい。もしかしての為に握ってきたやつだから土方くん食べて良いよ」
「そうか。じゃあいただく」
土方くんは私の隣に座って包みを開いた。
男らしく豪快にかじりついた。
咀嚼して飲み込んだあと
「美味い…美味い!お前が作ったのか?」
「そうだよ。三角のオニギリ作れないから」
三角オニギリは作れないから、丸いオニギリを作った。
「中の具が美味い。味噌肉だよな。米の中の胡麻もいいなぁ」
「気に入ってくれて嬉しいな」
「あぁ。買ったものと比べものになんねぇ。料理美味いな」
「オニギリで料理の腕を誉められてもね。こっちで誉めて欲しいな」
私はお弁当袋の上からコンコンとお弁当箱を軽く叩いた。