始まりは、12月25日。
私の17歳の誕生日だった。
2学期最後の日、終業式が終っても私は学校に残っていた。
家に帰りたくなかった。
寒空の下、部活動にせいをだす生徒達の声がする。
自分に関係ない声だとしても、一人の家でいるよりはマシだったから。
白い雪が空から降り積もってくる。
あれは天使の羽のようで
君を天使のように
空から引き下ろして
嘆きのキスを贈ろう
目を覚ませば君がいる。
翼をもがれた天使は笑ってた。
愛をこう姿は愛しくて
……
次の言葉が見つからない。
雪が降る屋上で書いているのは、歌の歌詞。
去年から、幼なじみと一緒に路上ライブなんてこと初めた。
曲は彰が作っているけど、歌詞はボーカルの私が作ることになってしまった。
彰の曲を聞きながら言葉を合わせていく。
下手な歌詞だけど、自分の気持ちと物語りを込めて行く。
愛を与える存在だって、愛を欲しいと思うでしょう。
例え、帰ることができなくても、愛してくれる人の側にいて愛されるならそれでも良いんじゃないかと
そういう歌にしたいと思った。
彰が作った曲に聴き入る。
主旋律の音しか入ってないけど、綺麗なメロディー。
彰のピアノの音は父の音に似ている。
ピアノニストの父と家族は私が10歳時になくなった。
海外での演奏旅行中、父の熱狂的なファンの凶弾を受けて帰って来なかった。
母も一歳の弟も帰って来なかった。
それが10年前のクリスマスイヴのことで、
クリスマスの日、海外から届いたバースデープレゼントとクリスマスプレゼントが届いて最後になってしまった。
屋上のコンクリートの上に仰向けになっていると、雪が降って来た。
白い雪。
この勢いなら積もるかも。
このまま埋もれて消えてなくなっても良いかもと思ってしまう。
そんな排他的なこと考えてしまうのは季節柄みたいなもの。
目を閉じると、雪が降る微かな音が聞こえてくるの。
父が教えてくれた。
雪の音は小さくて、一人きりの時じゃないと聞こえない。
私が一人でも平気な様に寂しくないように教えてくれたこと。
暗闇の中で身動きしただけで聞こえなくなってしまう雪の音。
しんとして、寒さで空気で清んでるから聞こえる。
雪の音が止んだ。
誰かが屋上に入ってきた。
足跡が私の側に近づいて来る。
「凍死するきか?」
目を開けると、真っ黒な髪をした男子が私を見下ろしていた。
見たことない。
「誰?」
「質問を質問で返すな。雪、積もってるぞ、早く帰れ本気で死ぬぞ」
眉間にシワを寄せて帰れと言う男子を私はぼんやりと見ていた。
どこかで会ったことある?
こんな風に上から目線で怒られるの初めてじゃない気がする。
彰たち以外は私をを腫れ物の様に扱うから、注意とか余りされたことなんてない。
貴方は誰?
どうしてだろう?
貴方とどこかで会ってる様な気がする。
「顔色悪いぞ。どんだけここにいたんだよ、直江桜理(なおえさくらこ)」
私の名前を呼んだ時の顔は子供みたいだった。
「私のこと知ってるの?」
「お前、有名人だからな」
みんな、私の家族のこと知ってるもんね。
「校則違反の常習犯だからな。遅刻、不純異性交遊、アルバイト、路上パフォーマンス、お前きりないぞ」
あ、そっちね。
「不純異性交遊してないし、あれはお迎え」
「他校の制服来てたじゃないか」
「幼なじみ。あれは私のタイプじゃないし。私がフラフラしないように迎えにきてるだけ」
「ガキかよ」
「路上ライブはちゃんと警察の許可もらってるし」
「うちの学校の許可も取れよ」
「面倒臭いからいや。でるわけないし。なんでこんなに厳しい校則ばかりあるの?授業難しいし」
「進学校だからだよ!何でここに入ってんだよ」