一人でいたくないくせに、独りでいさせて欲しいと思ってる。

矛盾している気持ちで堂々巡りを繰り返してる私にはその後起こる出来事を予想するなんてこと出来るわけがなかった。



うちに着くと、ドアノブに小さな箱と大きな箱と中ぐらいの箱が置いてあった。

誰が置いて行ったかなんてすぐにわかる。


彰と猛流だ。


小さい箱と中ぐらいの箱にはハッピーバースデーのメッセージ。

大きな箱にはメリークリスマスのメッセージが添えられていた。
涙が出てきた。


二人との繋がりが純粋に嬉しかった。


独りだと思ってたのに、私には二人との確かな絆があるんだ。


それだけで気持ちが楽になった。


私はプレゼントを抱えて中に入った。


そのプレゼントを抱いて眠った。

せめて夢の中では幸せでいたいと願いながら。
夢を見た。


全然知らない場所に私は立っていた。

荒らされた部屋。

私の意識は、誰かの身体の中に入っていた。

身体は自分の意識で動かせない。

まるで、体感シュミレーションの様に、誰かのしていることを、その人の視線で見ているような気分。


「すまない、でもこうしないと」

荒らされた部屋の中で私は男の人と向き合っていた。
明るい茶髪の軍服を来た男の人。

俯いていて表情が分からない。

肩が震えてる。

きっと悲しいのね。


「分かってる。あなたの大切なものが消えるのね。分かってるわ」


私が中に入っている人が声を発した。

鈴のように涼やかで、凛としている声。


彼女の感情が流れて来る。
酷い人。

結局、私より仲間を、組織を選ぶのね。

最初からそうだった。

最初からそうすると思ってた。

決めたことを貫くあなたが好きなんだからすぐ分かるわ。


「すまない。約束を何も叶えてやれないで」

「うん」

「お前に贈った言葉一つに偽りはなかったんだ。信じて欲しい」

「うん」


結婚しようって言ってくれた。

子供もたくさん欲しいって。

大丈夫。全部信じてたから。
「オレは、こんな結末望んでない!お前と一緒に生きて行きたかった」


泣かないで欲しい。


「仕方がなかったのよ」


私があいつの求婚を断ったから

昔、戦争に関わってたから

全部、私が望んだこと。

後悔してないわ

それが、幸せな未来にはならなかっただけなのよ

仕方がないわ
「仕方がないなんて言うな!」


怒ったり泣いたり、子どもみたいな人。


そんなところも


「好きよ。あなたが」


今もあなたが好き。

だから逃げなかった。

昔馴染みに、逃げようと言われたけど、逃げなかったのは、私が逃げたら君が殺されるから。


「ねぇ、最後にキスして」


最後なんだから、わがまま聞いて欲しい
大きな手は汗で濡れていた。

大きな手、好き。

この手で頬を撫でてくれるのが好きだった。

逞しい腕と身体、好き。

私を強く抱きしめて、受け止める腕と身体が、幸せだった頃を思い出させてくれた。


低くて通る声、好き。

私の名前を呼ぶ声が過去にうなされる私を救ってくれた。

澄んだ瞳、好き。

その目で見つめられると、愛されてるのだと感じられた。
それも最後。


「後悔はしてないよ。この国に喧嘩を売ったことも、あいつをぶん殴ったことも」

「あぁ」

「この国はいつも私の大切なものを奪って行った。好きにはなれないよ」

「あぁ」

「国は嫌いだけど。大切な人は沢山いるよ。バーのおばちゃんと女の子たち、ちびたちには手を出さないで」

「分かってる。ちびたちはオレが責任を持って面倒見る」