イヤリングにそっと触れると、冷たい感覚が指に伝わる。

「父様、母様…」

忌まわしいと温かな家族の記憶が蘇る。

表裏一体の記憶を頭を振り追い出すと、彼女は奥に戻った。

「オウリちゃん?」

アイリスが心配そうな顔をしてオウリを見上げている。

「大丈夫だよ。アイツはもうこないから」

子供たちは大人の感情に聡いことをオウリは知っている。
何も言わずに二人を抱きしめた。

茶色の髪を撫でて、二人の温かさに目を閉じた。


いつかの自分が両親に同じ様に、されたことを思いだしながら。
長期休みは気が楽だ。

学校に行かなくて良いから、土方くんとも合わなく良いし。

それを言い訳に、命がけのゲームを考えなくていい。

その変わり、

「桜理ちゃん遊ぼ」

私が春休みだと、近所の双子が毎日の様に遊びに来る。

「桜理ちゃんこれお母さんから」

男の子と女の子の双子。

アイリスとエイリアスの生まれ変わり。

今の名前は、明日佳(あすか)と永佳(えいか)

共働きの両親は学童保育ではなく、私に預けていく。
責任持ちませんよ

と何度も言ってるのに、学童で友達に気を遣うくらいなら、私や彰たちと遊んだ方が良いと二人は言っているからここに寄越している。

親も高校生に預けるからは、それなりに気負いがあるのか、明日佳が転んで怪我をしても何も言わなかった。

「桜理ちゃんお歌歌ってぇ」

二人とも私の歌が好きで、歌って聞かせている。

そこは前世でも同じみたいだ。
「また来てたのか、ガキども」

猛流が来て、明日佳たちに眉間のシワを作る。

決して子供が嫌いなわけじゃなくて、そういうキャラを作ってるだけ。

「猛流兄ちゃんだぁ」

「遊んでぇ」

猛流には兄ちゃんをつけて二人は飛びついて行く。

それを避けもせずに受け止めて遊んで上げている。

三人の中で一番子供好きなのは猛流だ。

「子供と同じレベルだからな」

と彰は言うけど、それは才能だと私たちは知っている。

猛流は誰よりも優しい。
お昼ご飯を作って食べさせているとチャイムが鳴った。

「はーい」

と玄関のドアを少し開けると、会いたくない顔がいた。

「近くを通ったものだからね」

私はドアを開けて、あからさまな嫌な顔を見せ付ける。

中年の男。
名前は芹澤

職業、警察官

階級警部

私の嫌いな大人の一人

「何の用ですか?」

「一人暮しの女の子がいるんだ。見回るの仕事だ」

恐持ての顔だけど、声はどこか優しさが篭っている。

けど騙されたりしない。

「何度来ても、私はあんたたちを許しませんし。あれも渡す気はありません」

「大人をそこまで嫌わないでくれ」

「あなたたちに原因があるんじゃないですか?」

「そうだね…」
「学校はどうだい?楽しいかい?」

「関係ないんじゃないですか?理解してくれても、所詮身内のことになれば、身内の利益しか考えないくせに」

芹澤さんの一番痛いところを攻撃する。

「こんな所にいないで、身内の不祥事なんとかしたらどうですか?」

「桜理ちゃん、私たちも努力をしているよ。みんなを守るために」


「あれを見た人間は警察なんて信用できませんよ」

早く帰れといっているのに、芹澤さんは帰らない。
「不法侵入!」

明日佳と永佳が叫んで、芹澤さんにスリッパを投げつけた。

「明日佳!永佳!」

二人をとめた。

「桜理ちゃんをイジメに来たんでしょ!」

「桜理ちゃんは何も悪いことしてない」

私を守ってくれようとしてる二人の気持ちが嬉しかった。

「芹澤さん。印象の悪い警官が見回りに来ても、オレらには偽善でしか見えませんよ」

猛流が永佳を抱き上げた。

「若い警官がまたこの辺をうろついてますから見回りは必要ないでしょう。仕事熱心なのは感心しますが度が過ぎると迷惑だ」

彰も出てきてくれた。

皮肉を芹澤さんに投げつける。