カインを家の中にあげた。

「誰だ?この人」

「カインよ。イヤリングを届けてくれたの」

「じゃあお礼だね。ありがとう」

エイリアスはカインに頭を下げた。

「お前の子か?」

「私が産んだわけじゃないけど、うちの子だよ。アイリスとエイリアス」

「オウリちゃんを狙っても無駄だからなお前!」

エイリアスと違いアイリスは、おませな子のようで、カインが返答に困るようなことをいうのだ。
「はい、お茶。朝ご飯は?食べた?」

「ありがとう。いや、まだだ」

「そう。ちょっと待ってな」

オウリはそういうと、簡単なサンドイッチのようなものを作ってカインの前に出した。

「良いのか?」

「食べないなら下げるよ」

「食う!」

カインは一気に平らげて行く。

気持ちいいほどの食べっぷりだ。

「美味かった」

「オウリちゃんのご飯は世界一よ。まずいわけがない」

アイリスは嬉しそうにカインに言った。
「そうだな」

カインはアイリスの頭を撫でると、いすから立った。

「ご馳走様。朝早く悪かったな。これから休むんだろ?」

「うん。イヤリングありがとう」

カインを見送るためにオウリは玄関に向かった。

「なぁオウリ。お前が軍が嫌いなのはあの子らのこともあるかな?」

「そうだよ。それだけじゃないけどね。だから二人にはあんたが軍属って言わないし、ここにはもう来ないで」

オウリの顔は冷たく、カインを突き放している。

「さっきの優しさは演技か?」
「そう。イヤリングのお礼だから」

「そのイヤリング、紋章みたいなもんが刻まれてんのな。お前、何者だ?」

オウリの耳に光るイヤリングの銀細工の部分には、菖蒲を模したような紋章が刻まれていた。

「言ったでしょ、形見だって。さっさと帰れ!仕事しろバーカ!」

カインの背中を蹴飛ばして家から追い出し、乱暴にドアを閉めた。
イヤリングにそっと触れると、冷たい感覚が指に伝わる。

「父様、母様…」

忌まわしいと温かな家族の記憶が蘇る。

表裏一体の記憶を頭を振り追い出すと、彼女は奥に戻った。

「オウリちゃん?」

アイリスが心配そうな顔をしてオウリを見上げている。

「大丈夫だよ。アイツはもうこないから」

子供たちは大人の感情に聡いことをオウリは知っている。
何も言わずに二人を抱きしめた。

茶色の髪を撫でて、二人の温かさに目を閉じた。


いつかの自分が両親に同じ様に、されたことを思いだしながら。
長期休みは気が楽だ。

学校に行かなくて良いから、土方くんとも合わなく良いし。

それを言い訳に、命がけのゲームを考えなくていい。

その変わり、

「桜理ちゃん遊ぼ」

私が春休みだと、近所の双子が毎日の様に遊びに来る。

「桜理ちゃんこれお母さんから」

男の子と女の子の双子。

アイリスとエイリアスの生まれ変わり。

今の名前は、明日佳(あすか)と永佳(えいか)

共働きの両親は学童保育ではなく、私に預けていく。
責任持ちませんよ

と何度も言ってるのに、学童で友達に気を遣うくらいなら、私や彰たちと遊んだ方が良いと二人は言っているからここに寄越している。

親も高校生に預けるからは、それなりに気負いがあるのか、明日佳が転んで怪我をしても何も言わなかった。

「桜理ちゃんお歌歌ってぇ」

二人とも私の歌が好きで、歌って聞かせている。

そこは前世でも同じみたいだ。
「また来てたのか、ガキども」

猛流が来て、明日佳たちに眉間のシワを作る。

決して子供が嫌いなわけじゃなくて、そういうキャラを作ってるだけ。

「猛流兄ちゃんだぁ」

「遊んでぇ」

猛流には兄ちゃんをつけて二人は飛びついて行く。

それを避けもせずに受け止めて遊んで上げている。

三人の中で一番子供好きなのは猛流だ。

「子供と同じレベルだからな」

と彰は言うけど、それは才能だと私たちは知っている。

猛流は誰よりも優しい。