お茶とみかんを出せば、またそれに群がる男たち。

どんだけ、食べるのよ。

「先輩、ごちそうになりました」

「悪いな直江」

「藤堂さん、政宗、そろそろ帰ろうぜ。一応、一人暮らしの女の家にいるつもりだ」

土方くんはお茶を飲み干すと、ソファーから立って、二人を引きずるように玄関に向かった。

「直江、お前の料理美味かった。ごちそうさま」


私の横を通るときに小さく呟いたのが聞こえた。
「先輩、また明日」

秋田くんは手を振って帰って行った。

静まり返った家。

静かな中で土方くんの言葉が頭を巡った。


「っ…」

顔が熱くなった。

彰にも猛流にも言われたことがあるのにこんなことはなかった。

どうしてだろう。

でも、土方くんとの糸は辛うじて繋がったことは確かだと感じた。
オウリには守りたいものがあった。

朝日を浴びながら家の階段を上がる。

ドアを開けると、

「「オウリちゃんおかえり」」

10才ぐらいの男の子と女の子が出迎えてくれた。


「アイリス、エイリアスいい子のしてた?」

二人は大きく頷いた。

「オウリさんお帰りなさい」

奥から子供を抱いた美女が出て来た。

「ありがとうサラ」

「お互い様よ。じゃあ二時間後にまた」
サラは近所に住んでいるシングルマザーだ。

昼はオウリに子供を預けて働いて、夜はオウリの子供を預かってくれる。

もちつもたれつの関係だ。

「うん。ねてるかもしれないけど、二人に預けてくれればいいから」

「えぇ。二人共、マリソルの面倒を見てくれるから助かるわ」

そう言って、帰って行った。

「オウリちゃん朝ごはん食べよ。今日は私が作ったんだよ」

「ボクも」

二人はオウリの手を繋いで、リビングに入った。
血の繋がりのない家族だけど、オウリは二人を本当の娘のように思っていた。


二人の本当の両親は戦争に巻き込まれ、味方の誤射で命を落としたという。

軍からの保障などなく、世間に放り出された二人をオウリは引き取った。

軍の自分の過ちを認めず、弱者を放り出す。

見てみないふりをする。
軍が嫌いなのはそれだけではないけれど、弱い人を守るという大義名分だけを振りかざす軍をオウリは強く憎んでいた。

朝食を取ると、オウリは寝ると寝室に行こうと子供たちに声をかけると、玄関を叩くおとがした。

「オウリちゃん、お客さん?」

「どうかな?」

勘の良いオウリは、普段はオブジェのように飾っている剣を手に取ると、玄関に向かう。

ここに来る人の気配は覚えている。

この気配は、

「死ね!腐れ軍人!」

ドアを開けて次の瞬間、切り掛かった。

「うおっ」

「ちっ!よけたか」
オウリの剣をしゃがむことで交わしたカインは、オウリを怒鳴りつけた。

「何しやがる馬鹿女!殺す気か!」

「そうよ。アポも無しに女の家に来るような男は殺されても文句は言えないわ」

カインはこの日も店に来ていた。

オウリは少しだけ相手をしたが歌を真面目に歌い続けた。

歌っていれば、カインの相手をしなくても済んだ。

「これ、落としたから」
カインはポケットから小さなイヤリングを取り出した。

月の光を集めた様なムーンストーンをさりげなく飾る銀細工のイヤリング。

オウリは思わず自分の耳を触った。

右耳のイヤリングがなくなっていることに気付いた。

「それ…」

「大事なものなんだろ」

オウリの手を取り、イヤリングをそこに乗せてカインは、少しだけ笑った。
「母の形見なの。ありがとう」

無くしてしまったら後悔だけじゃすまなかったはずだ。

「いや、こっちこそ押しかけて済まなかった」

カインはオウリの手を離すと、帰ると踵を返した。

「待って。お礼にお茶、出すから」

「良いのか?」

「人の善意には敬意と礼を尽くせっていうのが母の教えなの、だからただで帰すわけにはいかないの」