「適当に座って。準備が出来たら呼ぶから」

リビングに三人を待たせてキッチンに入った。

コートとマフラーを脱いで椅子にかけてエプロンをした。

おでんの鍋をコンロにかけて、もう一つのコンロにヤカンを置いた。

「お茶どうぞ」

一応、お客様だからお茶をだした。

「悪いな」

「ありがとうございます」

「いただきます」

三人はお茶を美味しそうに飲んでくれた。
「テレビでも見てて」

私は、キッチンに戻って食事の支度をする。

お味噌汁も簡単なものを作って、ご飯をお握りににぎった。

昨日の残り物の煮物も温めて、三人を呼んだ。

「準備出来たよ」

ダイニングに三人が入ってきた。

4つある椅子が初めて埋まった。

「おでんとお握りには勝手に取って食べて。お味噌汁も作ったけど、食べる?」

三人とも頷いた。

味噌汁と煮物を持ってきてテーブルに置くと、三人から感嘆の声がもれた。
「お前が作ったのか?この煮物」

土方くんは声が呟いた。

「そうだよ。昨日の残りだけど」

おでんにはお肉が入ってないから。

高校生だもの。

お肉食べたいんじゃないかな?って思っただけ

「美味い」
鶏のモモ肉と大根を煮込んだだけのものだけど、土方くんは気に入ってくれたみたいだった。

「直江は良い嫁さんになるだろうな」

「藤堂くん、おっさんみたいだよ」

「先輩、オレの嫁さんになりませんか?」

「考えとく。冷めちゃうから早く食べよ」


こんなうるさい食事は久しぶりだった。

彰たちとの食事はこれよりも大部大人しいものだから。

やっぱり男の子だ。

あれだけあったおでんがすぐに空っぽになってしまった。
お茶とみかんを出せば、またそれに群がる男たち。

どんだけ、食べるのよ。

「先輩、ごちそうになりました」

「悪いな直江」

「藤堂さん、政宗、そろそろ帰ろうぜ。一応、一人暮らしの女の家にいるつもりだ」

土方くんはお茶を飲み干すと、ソファーから立って、二人を引きずるように玄関に向かった。

「直江、お前の料理美味かった。ごちそうさま」


私の横を通るときに小さく呟いたのが聞こえた。
「先輩、また明日」

秋田くんは手を振って帰って行った。

静まり返った家。

静かな中で土方くんの言葉が頭を巡った。


「っ…」

顔が熱くなった。

彰にも猛流にも言われたことがあるのにこんなことはなかった。

どうしてだろう。

でも、土方くんとの糸は辛うじて繋がったことは確かだと感じた。
オウリには守りたいものがあった。

朝日を浴びながら家の階段を上がる。

ドアを開けると、

「「オウリちゃんおかえり」」

10才ぐらいの男の子と女の子が出迎えてくれた。


「アイリス、エイリアスいい子のしてた?」

二人は大きく頷いた。

「オウリさんお帰りなさい」

奥から子供を抱いた美女が出て来た。

「ありがとうサラ」

「お互い様よ。じゃあ二時間後にまた」
サラは近所に住んでいるシングルマザーだ。

昼はオウリに子供を預けて働いて、夜はオウリの子供を預かってくれる。

もちつもたれつの関係だ。

「うん。ねてるかもしれないけど、二人に預けてくれればいいから」

「えぇ。二人共、マリソルの面倒を見てくれるから助かるわ」

そう言って、帰って行った。

「オウリちゃん朝ごはん食べよ。今日は私が作ったんだよ」

「ボクも」

二人はオウリの手を繋いで、リビングに入った。
血の繋がりのない家族だけど、オウリは二人を本当の娘のように思っていた。


二人の本当の両親は戦争に巻き込まれ、味方の誤射で命を落としたという。

軍からの保障などなく、世間に放り出された二人をオウリは引き取った。

軍の自分の過ちを認めず、弱者を放り出す。

見てみないふりをする。