「テメェ!」

シワだけじゃなく、青筋までたてて本気で怒ってることが分かった。

私が女じゃなかったら、殴られてるね。

同じ目線になった彼の顔は、見上げている時よりカッコイイ顔をしていることが分かった。


「久保田くんの手、冷たいんだもの。ビックリしちゃった」


上手くごまかして私は立ち上がった。


「直江!」


「そうだ。久保田くん、私の名前、桜理(さくらこ)じゃなくて、桜理(おうり)って言うの。人の名前間違えるのって失礼よ」
かという私も彼の名前なんて知らないから、お相子なんだけどね。


このまま彼と言葉遊びをしてるべきじゃないと思ったから、帰ることにした。


ノートやペンを鞄につめるて久保田くんを残して屋上をでた。


電車でも帰りたくなかったから、徒歩で帰る。


横目に映る家にはクリスマスのイルミネーションが飾られていて、それだけで孤独感を刺激される。


耳にヘッドフォンをつけて、クリスマスと縁の無いような曲を聞いて早足で進む。
早く明日になれば良い。

そうすれば、いつもの私に戻れる。


ポケットの中のケータイが震えてるのも分かってる。

彰と猛流がかけて来てくれてるのは分かってるけど、出たくない。


今日の私が危うい雰囲気なのを分かった上で、繋がることのない電話をかけ続けてくれている。

それが私を現実に繋ぎ止めているのも事実だった。
一人でいたくないくせに、独りでいさせて欲しいと思ってる。

矛盾している気持ちで堂々巡りを繰り返してる私にはその後起こる出来事を予想するなんてこと出来るわけがなかった。



うちに着くと、ドアノブに小さな箱と大きな箱と中ぐらいの箱が置いてあった。

誰が置いて行ったかなんてすぐにわかる。


彰と猛流だ。


小さい箱と中ぐらいの箱にはハッピーバースデーのメッセージ。

大きな箱にはメリークリスマスのメッセージが添えられていた。
涙が出てきた。


二人との繋がりが純粋に嬉しかった。


独りだと思ってたのに、私には二人との確かな絆があるんだ。


それだけで気持ちが楽になった。


私はプレゼントを抱えて中に入った。


そのプレゼントを抱いて眠った。

せめて夢の中では幸せでいたいと願いながら。
夢を見た。


全然知らない場所に私は立っていた。

荒らされた部屋。

私の意識は、誰かの身体の中に入っていた。

身体は自分の意識で動かせない。

まるで、体感シュミレーションの様に、誰かのしていることを、その人の視線で見ているような気分。


「すまない、でもこうしないと」

荒らされた部屋の中で私は男の人と向き合っていた。
明るい茶髪の軍服を来た男の人。

俯いていて表情が分からない。

肩が震えてる。

きっと悲しいのね。


「分かってる。あなたの大切なものが消えるのね。分かってるわ」


私が中に入っている人が声を発した。

鈴のように涼やかで、凛としている声。


彼女の感情が流れて来る。
酷い人。

結局、私より仲間を、組織を選ぶのね。

最初からそうだった。

最初からそうすると思ってた。

決めたことを貫くあなたが好きなんだからすぐ分かるわ。


「すまない。約束を何も叶えてやれないで」

「うん」

「お前に贈った言葉一つに偽りはなかったんだ。信じて欲しい」

「うん」


結婚しようって言ってくれた。

子供もたくさん欲しいって。

大丈夫。全部信じてたから。
「オレは、こんな結末望んでない!お前と一緒に生きて行きたかった」


泣かないで欲しい。


「仕方がなかったのよ」


私があいつの求婚を断ったから

昔、戦争に関わってたから

全部、私が望んだこと。

後悔してないわ

それが、幸せな未来にはならなかっただけなのよ

仕方がないわ