「私は用心棒兼歌姫。客の相手はしない。ミレイナ、このオフ軍人の相手、お願い」
オウリは接客中のミレイナというブロンド美人を呼んだ。
彼女は若いが、客のタイプに合わせて接客できる器用な子だった。
「待てって。オレはお前が良いんだよ」
腕を捕まれた瞬間、オウリは勢いよく振り払う。
「さわんないで!軍臭くなるでしょ」
「そんなに軍人が嫌いか?」
過剰な反応にさすがのカインも彼女から手を引いた。
「そう。大嫌い」
オウリはカインから離れて舞台に立つと歌い始めた。
「女将。あいつ軍と何かあったのか?」
「さぁ?あの子の軍嫌いは今始まったことじゃないし。軍嫌いはどこの町にもいるだろ。オウリが珍しいわけじゃない」
カインとカーラの会話は聞きながらオウリはすぅっと息を吸い込んだ。
戦うことを決めた歌。
決して諦めない歌。
手にした剣の重さを忘れない
あなたを裁くための剣は私の手の中
例え、全てを無くすと言われても振り返ることはしない
私の中にはなにもない。
剣だけがあればいい。
あなたを断罪出来ればそれで良い
彼女の歌は目が醒めても忘れることなく頭の中で聞こえていた。
それは、生まれ変わった現世で自分の想いを歌って欲しいと
自分の代わりに歌って欲しいと言っているようだった。
それを私は自分の想いと合わせて一つの歌とした。
2月になって寒さが厳しくなった。
温暖化とか言っていながら、世界は真冬だ。
私は猛流と彰が誕生日プレゼントで買ってくれた白いコートと去年の余った毛糸で作ったマフラーで寒さを凌いで、学校ではもっぱら裏庭にいた。
タンブラーの紅茶が冷めたお腹を温めてくれた。
考えるのはオウリとカインのこと。
今、見ている夢の中ではオウリがカインを徹底的に嫌っていて、二人がどうしてくっついたのかがどうしても分からない。
オウリは極端な軍嫌いで、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いどころではなく、軍人が憎ければ制服どころか軍人の家族、そこで飼われている犬すらも憎いそんな感じだった。
オウリの心の奥はどうしてか見えない。
本当に映画を見ている感覚に似ている。
「直江、やっぱりここか」
「土方くん」
映画の様に土方くんは私を呼びにくる。
「会議だ。来いよ」
私はまだ臨時の風紀委員のままだった。
先月のライブを土方くん達に見られて、罰を延長された。
「風邪ひくぞ。早く来い」
土方くんの隣を歩いて風紀委員室に向かう。
相変わらず男臭い部屋だけど大分慣れた。
「直江先輩、良いもの持ってますね?」
秋田くんが私のタンブラーに気づいて手を伸ばした。
「紅茶だよ」
「一口下さい」
「良いよ」
「政宗、なんでもかんでも、ねだるな」
「土方さん、それは直江先輩の間接キスを自分が狙ってるってことですか?」
「違う!」
「即答するとこが怪しい」
「政宗!今日こそ殴る!」
二人のじゃれ合も慣れてきた。
打算的な私は、この縁の糸を少しずつ絡めて行こうということをここで考えていた。
私の打算的な行動その1は。
「ちょっと、直江さん」
知らない女子に声をかけられた。
同じような髪型の女子三人。
いつかも声をかけられた様な気がするけど、誰が誰かなんて分からない。
「あなたまだ風紀委員やってるの?風紀委員の人達に迷惑だとは思わないの?」
確かこの間も同じことを言われた気がする。
「土方くんは忙しい人なの。部活もあるのに、あなたみたいな堕落した人を放っておけない優しい人なの。そこに漬け込むなんて最低よ」
これも言われた。
「何か言いなさいよ」
これも
「貴方たちはボキャブラリー少ないのね。こないだも同じこと言ってたね」
思ったことを口にしてしまうと、彼女たちの形相は一変した。
「調子にのってんじゃないわよ!少し可愛いから男に囲まれていい気になってんじゃないの!」
「そうよ。あんたなんか簡単にやれるとしか思われてないんだから」
「みなし子の分際で生意気よ」
犬みたいに吠えられても怖くもなんともなかった。
何を言われても私の心をえぐることもない。