「先生は関係ないです」
自分に言い聞かせる意味も込め、力強く否定した。
「けど……」
「自惚れないでください」
私との思い出ごと関係をなかったことにすると言い放った淳一に、同情されるのは癪だ。
「ご自分が同じ教室に存在するというだけで、私に対してそこまでの影響力があると? 自意識過剰ですね」
言った。言ってやった。
再会して依頼、傷つけられてばかりだった。
ようやくやり返せた気がして、ほのかに快感を覚える。
私の言いように、さすがの淳一も気を悪くしたのか表情を歪めた。
だけど、何も言い返してはこない。
「あの日は体調が悪かっただけですから」
私は立ち上がり、スクバを持つ。
仕草が乱暴になり、ふたりだけの静かな教室に余計に音が響く。
「椿」
彼の声で名字を呼ばれるのは、まだ少し切ない。
だけど「さくら」と呼ばれてしまったら、私はその度にきっと彼への気持ちをぶり返す。
「ご心配かけてすみませんでした」
軽く頭を下げ、逃げるように早足で教室を出る。
話しかけるなって言ったくせに、自分から話しかけてくるなんてどういうつもりだ。
ふざけんな。
私とのことをなかったことにしたいのなら、完璧にそれを演じてよ。