「先生、妄想激しすぎ」

「妄想かなぁ」

先生はニヤニヤ怪しい笑みのまま、私の反応を楽しんでいる。

先生の妄想は正しい。

だからこそ、これ以上詮索されたくない。

だけどこの悪趣味な担任は、否定すればするほど楽しげにつついてくるだろうから、私は少しだけ本当のことを話すことにした。

「失恋したことがないとは言いませんよ。でも、最後に失恋したの、昨年の夏なんで」

おそらく、背後でノートを拾っている男にも、この言葉は聞こえただろう。

彼がどんな顔をしているかは、さすがに見ることはできないが。

「ほう? 昨年の夏」

佐渡先生はよっぽど生徒の恋模様に関心があるのか、興味津々といった感じに目を輝かせる。

「相手は校外の年上の男性です」

「ちぇー、校外か」

彼は私の失恋相手が自分の知った人間ではないと判断した途端、興味を失ったようにつまらなそうな反応をした。

助かったと言うべきだろうか。

「とりあえず。次は調子戻せよ」

「はい」

試験監督に淳一が来なければ、きっと大丈夫だと思います。

「ああ、それと」

「何ですか?」

「昨年の夏の傷は癒えたのか?」

この質問に、ドクリと心臓が反応した。

淳一とのことなんて彼が知る由もないが、やっぱり見透かされているようで落ち着かない。

癒えたかどうかなんて、答えは決まっている。

「いいえ。未だに抉られっぱなしですよ」

私は口許にだけ笑みを浮かべ、そう答えた。

佐渡先生は「そうか」とだけ告げ、それ以上は何も詮索しなかった。