放課後、言いつけ通り職員室の担任のもとを訪れた。
担任の佐渡(さわたり)先生は40を越えた中年男性で、少しおせっかいだが、面白い先生だ。
佐渡先生は私の試験結果のコピーを眺め、小さな声で尋ねてきた。
「椿、何かあったのか?」
悲惨な試験結果を怒られるのを覚悟で職員室に来たが、悲惨さの度が過ぎて、逆に心配されているらしい。
怒られる気満々だった私は肩透かしを食らった。
「いえ。特に何かあったわけではないんですが」
淳一がいて動揺したのだとは言えない。
「点数の落ち方が酷すぎる。書いてるところはおおかた合ってるな。集中できずに進まなかったっつーところか」
鋭い。
受験指導のプロとしての目は確かということだ。
「おっしゃる通りです」
私が認めると、佐渡先生は納得したようにため息をつき、結果表のコピーを手放した。
「まぁ、模試なんて全教科0点でも死にはしないさ。まだ高校生なんだ。悩みひとつで集中を欠くなんて珍しいことじゃない」
「ご心配かけてすみません」
「珍しくないから、俺には何となくわかるんだけどな」
「何ですか?」
先生が私の顔をじっと見る。
その目は何か確信を得たような力を持っている。
すべてを見透かされているようで、心が落ち着かない。
「椿。お前、失恋した?」
図星突かれた私は、反射的に大きな声を出した。
「してません!」
知られたくないことをズバリ言い当てられると、人は大きな声で否定する習性があるのかもしれない。
そうすることで余計に肯定しているように見えたのは、自分でもわかった。