『でも、不幸を乗り越えた人はカッコええよな。言葉に重みと説得力があるし。俺もそんな人間になりたいわ。不幸は嫌やけど』

淳一が続いて冗談混じりにそう語ったのを思い出し、クスッと笑いが漏れる。

幸い聞こえるほど近くには誰もおらず、怪しまれることはなかった。

私も、嘆く側ではなく、乗り越える側になりたい。

悲劇のヒロインぶるのは簡単だ。

今の状況を嘆き、悲しみ、彼を思って泣けばいい。

ただし、自己満足でしかない。

鬱陶しい女になり下がるだけだ。

そんなのは嫌だ。

私はもう、十分に悲しんだ。

十分に泣いた。

これ以上はやめよう。

前を向こう。

彼を記憶から消すことはできないけれど、誰かに新しく恋をすることはできるかもしれない。

来週からは、突然淳一がそばに来ても動揺なんてするもんか。

今日の失敗は、次回に活かす。



約二週間後、模試の結果が返ってきた。

結果はやっぱり散々だった。

わかっていたことだ。

今さら落ち込んだりはしない。

とはいえ、避けられないこともある。

「椿、放課後ちょっと職員室に来い」

担任からの呼び出しである。