「これで今日の模試は終了です。お疲れさん」

模試が終わり、淳一の合図でクラスが一気に帰宅モードに入った。

淳一は私たちから回収した答案用紙を持って教室を出ようとするが、途端に数人の生徒に囲まれる。

「おっくん、ここの問題教えて」

「あたしもー!」

「俺も俺も」

感心するほどの人気者だ。

その中に茜の姿もある。

他の生徒に笑顔を見せる淳一を見て、胸が鈍く痛む。

私はカバンを持ち、順番待ちをする茜に声をかけた。

「茜、ごめん。先帰るね」

「えっ、さくら?」

「ちょっと今日は急ぎたくて。また月曜ね。ばいばい」

なんとか笑顔で告げ、そそくさと教室を出る。

淳一のいる空気に、もう耐えられそうになかった。

早く開放されたかったのだ。

まさか彼が教室にいるだけで、こんなにも自分をコントロールできなくなるとは思わなかった。

生徒玄関にたどり着いたとき、聞き覚えのある声が私を呼んだ。

「椿さん」

条件反射的に振り向く。

背後に立っていたのはクラスメイトの中山雄二(なかやまゆうじ)だった。

背が高く短髪で、学年でも目立つ男子のひとりである。

剣道部のキャプテンをやっており、成績はかなり上位。

そのうえ嫌味のない性格と人好きのする顔で、人間としてズルいくらいにハイスペックだ。

この中山が、ここのところよく私に絡んでくる。

「ああ、中山くん」

ヘラッと、薄っぺらい笑顔を張り付ける。

正直私は、あんまり彼に構われたくない。

他の女子に妬まれるのだ。

彼はそんな私の気持ちなど知らずに尋ねてきた。

「今日、なんか調子悪そうだったけど、大丈夫?」

恐ろしい男だ。洞察力まで優れているらしい。

私の様子がおかしいことに、彼は気づいていた。