模試は続く。

試験監督は変わらず淳一だ。

私が集中できていないことに気付いたのか、あれ以来彼は教室の巡回をやめ、私に接近することはなくなった。

だけど、だからといって私の緊張が解けることはなかった。

「はい、そこまで。後ろから回収」

午前中の試験が終了した。

ようやく一休みできると、教室のあちこちから疲れの滲んだため息が漏れるのが聞こえる。

「これから13時まで昼休みになる。5分前には各々席についておくようになー」

「はーい」

淳一が答案用紙を持って教室を出る。

それを見届け、私はため息をついて机に伏せた。

やっと緊張が解け、強張っていた身体中の筋肉が弛緩してゆくのを感じる。

そんな私に、茜が声をかけてくれる。

「どうしたの? 具合悪い?」

私の恋煩いは本当の体調不良に見えるらしい。

それほど辛い顔をしているのだろうか。

「ううん、体調は平気。ただ、問題が全然解けなくて」

「珍しいね。さくら、いつも成績安定してるのに」

「今回は相当ダメだと思う」

「そんなに? ま、お昼食べて午後も頑張ろ」

「うん」

茜に淳一のことを打ち明けて、胸に溜まったものを吐き出したら楽になると思う。

だけど、話すわけにはいかない。

せっかく淳一の夢が叶ったのに、彼の輝かしいキャリアを私ひとりのために傷物になんかしたくない。

私は堪えなければならないのだ。



午後も試験監督は淳一だった。

彼が同じ空間にいることにもだんだん慣れ、ある程度は調子を取り戻せた。

しかしながら己の学力には限界がある。

この模試の結果が帰ってきたとき、私はそのことを思い知るだろう。