「ほれ。悪かったな、びっくりさせて」

淳一が差し出すペンを、そっと受け取る。

「いえ、すみませんでした」

ペンには微かに彼の温もりが残っていた。

包み込むようにそれを握り、一呼吸。

声、震えてなかったかな。

自然に振る舞えたかな。

そんなことばかりを考える頭を軽く横に振り、私は再び問題へと意識を戻した――。



「そこまで」

終了の合図でペンを置く。

緊張していた教室の空気が緩和する。

「後ろから前に送って回収」

慣例に倣って答案用紙を提出する。

得意の数学なのに、今回は半分も解けなかった。

今日の模試はこの後も散々たる結果だろう。

私はため息をついて、机に伏せた。

淳一が触れたペンが目の前に転がっている。

彼が近くにいると、つらい。

目の前にいるだけでドキドキする。

普通は嬉しくて舞い上がってしまうところだろう。

胸のなかに溢れ出る恋心をもて余し、相手に愛されるために頑張ろうとやる気になるところだろう。

……だけど、私は。

心をかき乱されるだけのドキドキや胸を痛め付けるだけの恋心に堪えるだけで、こんなにも冷静さを失ってしまうのだ。