高3になると、大学受験に向けての模擬試験が頻繁に行われるため、土日も学校に行く機会が増えた。

土日は朝のお出迎えがないから、登校時に淳一の顔を見ることもない。

平日より穏やかな気持ちで校門を通過したのだが、心の平穏は長くは続かなかった。

「始めるぞー、席着けー」

試験監督として教室に現れたのは、淳一だったのだ。

「きゃあっ! おっくーん」

茜を含め、数人の女子が黄色い声を発する。

私は彼女らの声でかき消える程度の小さな悲鳴をあげ、落ち着かない気持ちで席に座った。

志望校判定の出る大事な模試なのに、集中を欠くのは必至だ。

「これから問題を配るけど、始まるまで絶対に中は見るなよ」

淳一はそう言いながら、手慣れた仕草で問題冊子を配布する。

「見たらどうなるんですかー?」

クラスメイトのふざけた質問に、淳一は軽く笑って答える。

「進路指導室で俺にみっちり説教される」

「おっくんの説教なら見ちゃおうかなぁ」

「あたしもー」

「こらこら。俺だって怒るとそれなりに怖いぞ」

クラスが笑いに包まれるが、私は笑えなかった。

今この問題冊子を開いたら、淳一と二人で話せる。

ページをめくってしまいたい衝動に駆られ、奥歯を噛み締めグッと堪えた。

淳一に迷惑はかけたくない。

「はい、始め」

堪えたまま、無事に模試は開始された。

淳一は教卓の奥に椅子を置き、座った。