ゆっくり振り返る。
光沢のある木地で仕立てられたスリーピーススーツを着た淳一が立っていた。
「じゅん……」
卒業したのだから、私は生徒ではなく元カノだ。
もう「先生」なんて呼ぶ必要はない。
そう思って名を呼んだが、彼はその事を咎めなかった。
「卒業おめでとう」
「うん、ありがとう」
暦上は春だけれど、3月になったばかり。
日が傾く時間の空気はまだ冷たい。
淳一は私のそばまで来て、視線を近くの木に向けた。
私も彼に倣い、蕾をつけているその木を見る。
「さくら。もう時効やし、ほんまのこと言うわ」
「ほんまのこと?」
風が吹き、木々がざわざわ騒ぎ出す。
私の心のざわめきが表に出てしまったような気がして、たまらず淳一に目を向けた。
淳一は変わらず揺れる木々を見つめている。
ポケットに両手を入れ、シャキッと背筋を伸ばして。