私たちは最後のホームルームのあと、写真を撮ったり卒業アルバムにメッセージを書き合ったりして学校中を巡った。
スマートフォンの画像フォルダが学校や同級生で埋まり、アルバムがペンのインクで染められていく。
一通り巡り終えた頃には、もう夕方になっていた。
卒業生は少しずつ解散しているようだ。
私たちもそろそろ……となった頃、私は友人の輪を離れ、一人でとある場所へと向かった。
どうしても一人で訪れておきたい場所があったのだ。
人気のない校舎裏だ。
淳一と再会した日、人目を盗んで二人で話した場所である。
私はジャケットのポケットからスマートフォンを取り出し、カメラを起動した。
淳一に傷つけられたこの場所を残しておきたい。
あの日の喜びと絶望を忘れないために。
……カシャ。
シャッター音が校舎の壁に反射してやけに響いた。
「よし」
少し暗くなってきたことを懸念していたけれど、なかなかよく撮れている。
ふと、背後に革靴の音が近づいてくるのが聞こえてきた。
音のテンポでそれが誰であるかわかってしまう自分のアンテナの高さに呆れる。
「さくら」
彼の声はシャッター音以上に校舎の壁に響いた。