「聞きたいか? 奥田先生のこと」

担任が来たときから彼の名前が出てることはわかっていたのに、肩が震えた。

「できれば聞きたくありません」

声も震えた。

というより、頬の筋肉が震えている。

せっかく叶った淳一の夢やキャリアが、自分のせいで終わるのを見たくない。

そんなことになったら、私は彼にどう償っていいかわからない。

逃げているだけだというのはわかっている。

でも、その罪悪感に堪えられる自信がなかった。

「奥田先生は何の処分もされなかったぞ」

聞きたくないと言ったのに、担任はあっさりと言ってのけた。

「本当ですか?」

「本当だよ。お前の卒業まで、極力接触しないようにすることが条件だがな」

そんなの、楽勝だ。

今までだって、意識的に避けてきたのだから。

「よかった……本当に、よかった」

淳一の夢やキャリアは守られた。

ホッとして全身から力が抜けていく。

久しぶりに血液が巡る感覚がする。

担任がいるのに涙が止まらない。