私の呟きに、中野先生は険しい表情になった。
「どうしてそうなるの?」
「責任、みたいな?」
我ながら、バカみたいな答えだ。
「あなたに取れる責任なんてないのよ」
言われなくたってわかっている。
「そうですよね」
私は何もできない子供だ。
好きな人を蹴落とすようなことは簡単にできるのに、救うことはできない。
淳一は私なんかに出会わなければよかったのだ。
もし昨年の夏に戻れるのなら、私は淳一と出会った場所には近づかない。
もし他のとこかで出会ったとしても、恋人になんかならない。
こんな「もしも」の想像なんて、まったくの無意味だけれど。
私はコーヒーを飲み干し、カップをテーブルに置いた。
「中野先生」
「なに?」
「中野先生は、奥田先生の味方でいてくださいね」
恋愛感情でもいい。
私には何もできないから、せめて中野先生だけでも彼の力になってあげてほしい。
「もちろんよ」
「私、戻ります。コーヒーご馳走さまでした」
私は立ち上がり、部屋の中にある流し台で自分のカップを洗う。