すべてって、何を話すつもり?
高校3年にもなるが私はまだ子供で、大人たちの会話についていけず、口を挟む隙さえ見つけられない。
淳一は不安に固まる私に顔を見せ、ふと微笑んで見せた。
「大丈夫。心配すんな」
神戸訛り。
教師ではなく元カレとして言ったのだとわかる。
彼が本当にすべてを話すつもりなのだと察して鳥肌が立った。
「でも……」
そんなことしたら、教師をクビになるかもしれないのに。
「ええから。何も悪いことはしてへんし」
もうこの時点で、私たちにプライベートな付き合いがあることは明らかだ。
視線が私と淳一に集まっている。
「それでは、お話しいただけますか?」
淳一は覚悟を決めたように背筋を伸ばし、拳を太股に置いた。
「僕たちは昨年の夏、ひと月だけ付き合っていました」
本当に言っちゃった……!
大人たちの表情が凍りつく。
「付き合っていた? 過去形、しかも昨年?」
「はい、昨年です」
「奥田先生は関西の方の大学に在学されていたはず。なぜ椿さんと出会えたのですか?」
理事長が私を見るので、ここは私が答える。
「私、昔から夏休みは神戸の親戚の家で過ごすのが恒例だったんです。奥田先生とは、神戸にいる間に出会いました」
「なるほど……それで夏ですか」
淳一は続ける。
「彼女がこの高校にいることを知ったのは、今年の始業式の日です。彼女の通っている高校の名前なんて知りませんでしたし、別れてからは一切連絡を取っていませんでしたから」
「つまり、再会はまったくの偶然だと?」
「はい。彼女の姿を見たときは、本当に戸惑いました」