また数秒、沈黙があった。

沈黙とは怖いものだと刷り込まれそうだ。

「そうですか」

校長の穏やかな顔が逆に怖い。

「それでは、奥田先生にもお話をうかがいます」

校長が淳一を指名する。

すると淳一は、軽く笑いを漏らした。

「僕にはもう、話すことなど何もありません。先の二人の話の通りです」

理事長の眉間にシワが寄り、校長の笑みが微かに変わる。

「あえて付け加えるとしたら、椿さんが無理矢理病院に連れていってくれたおかげで、高熱は二日で完治しました。教師としては情けない限りですが、彼女にはとても感謝しています」

学校の最高権力者であるこの二人に対し、この堂々たる話しぶり。

惚れ直した、などと思ってはいけないのかもしれないけれど、この人のことを好きになってよかったと、改めて思った。

あの日、私たちの間にやましいことはなかった。

これできっと伝わったはずだ。

校長と理事長は、私たちには聞こえないくらいの小さな声で一言二言交わし、私たちの方を向いた。

理事長の表情が険しいままで、私の確信が揺らぐ。

「申し訳ないが、我々は疑わざるを得ないのですよ」

「え?」

私、淳一、そして中野先生の声が重なった。

「いくら駅で倒れていたとはいえ、普通は家までついていかないでしょう?」

困っている先生を助けたという美談でうまくまとまったのに、そこを指摘されると痛い。

「奥田先生の担当は1年生です。椿さんは3年生。接点は少ない。その日は自分の体調もよくなかったのに、奥田先生を病院まで連れて行き、さらに自宅まで送り届けるなんて不自然だと思うんです」

「男性教師を、女子生徒が、ですから特にね」