私が話し終えても、校長と理事長はしばらく無言だった。
「……あの、以上なんですけど」
不安になってそう付け加えると、理事長が小さく「わかりました」と応えた。
校長室の空気は重く、自分の鼓動の音しか聞こえない時間がやけに長く感じる。
大人は何を考えているのかわからない。
「それでは中野先生、先程うかがったことを、もう一度お話いただけますか?」
しばしの沈黙を破ったのは校長だった。
中野先生は「はい」と頷き、静かに語り始める。
「あの日、奥田先生が高熱で早退されたと聞いて、たまたま空きがあった私が、様子を見にご自宅へうかがいました。これは校長先生の指示です」
校長が二回頷いた。
彼女が淳一の部屋に来たのが彼女の意思ではなかったことに、私は密かに喫驚する。
「奥田先生のご自宅に到着して、インターホンを押して……出てきたのが彼女でした。私もその場で事情を聞きましたが、さっきと同じ説明を受けました」
腕を組み、威圧的なオーラを放つ理事長が中野先生に問う。
「なぜそれを報告しなかったのですか?」
中野先生は臆することなく答えた。
「二人にとって不利にはたらく誤解を、招くだろうと思ったからです」