「さくら」
茜が、焦る私を諫めるように呼んだ。
やけに落ち着いているのは他人事だからというだけではなさそうだ。
「茜、何か知ってるの?」
私の問いに、茜は呆れたようにため息をついた。
そして、もう確信を持った顔つきで尋ねてきた。
「さくら、おっくんの部屋に行った?」
「え……?」
なぜ茜がそれを知っているの。
「1年生の女の子が入るとこを見てたらしいんだけど……本当なのね?」
ぐ、と喉が詰まる。
目撃者がいるのだ。
否定しても仕方がない。
「行ったよ。でもやましいことは、何もないの」
このことはすでに雄二の耳にも入っているだろう。
今知らなくとも、いずれ知ることになるのなら、私の口から伝えたい。
こんな気持ちで話すことになるのなら、はじめから話しておけばよかった。
人気のないところに雄二を呼び出し、彼と茜にあの日のことを話した。
駅で彼を見つけたことから、中野先生が訪れたことまで。
「事情はわかった。生徒としてはいきすぎとはいえ、知人としての行動としては理解できるし、筋は通った行動ね」
茜はホッとしたようだったが、雄二は神妙な顔のまま言った。
「おかしい」
「え、何が?」
「なんでその1年が奥田先生の家を知ってんの?」
「確かに……なんでだろう」
うちの学園では、教師の住所は明かされない。
生徒は教師の住まいなど知らないはずだ。
たまたま近所でばったり会って知ったとか、偶発的な可能性は色々あるけれど。
「それに、さくらが先生の家にいた時間って、学校では授業中だよな。その子がさくらと先生がふたりで部屋に入るのを見たってことは……」
「学校を休んでた?」
「いや、休んでわざわざ先生の家まで行く意味はないよ」
「まさか、先生が体調不良で早退したことを知って、自分も早退したってこと?」
でも、何のためにそんなこと。