「聞き忘れてたけど、あなた3年生よね。名前は?」
「椿さくらです」
私が名乗った瞬間、彼女は淳一の部屋の扉を開けたとき以上に険しい顔になった。
「さくら?」
「はい」
「そう……さくらっていうの……」
ため息を落とし、意味深に呟く。
「私の名前がなにか?」
気まずい。
本当に気まずい。
早く彼女から解放されたいけれど、駅まではまだまだ距離がある。
「この間、奥田先生と飲みに行ったの。あ、飲むってお酒を飲むってことよ?」
「それくらいわかりますよ」
「私、ストレスが溜まってたからすっかり酔っ払っちゃってね。途中からあんまり記憶がないんだけど……覚えてることがふたつあるの」
その話に、何の意味があるの?
私の方が淳一と仲良しアピール?
それとも、私なら彼と大人の付き合いができますアピール?
「はぁ、そうですか」
彼女に好感が持てないのと、この状況のストレスが相まって、ついぶっきらぼうに反応してしまう。
彼女は私の態度など気にせずに続けた。
「ひとつは、さんざん奥田先生に迷惑をかけたこと。さんざん彼に絡んで、彼の支えがないと歩けないくらいに潰れて……」
なるほど。
肩を抱いて歩いていたというのは、このことかもしれない。
「……あの部屋に泊めてもらったの」
「えっ」
つい声を漏らしてしまった。
泊まったの? あの部屋に?
そこで起こったかもしれないことを想像すると、胸がズンと重くなる。