中野先生と一緒に部屋を出た。

手に嫌な汗をかいている。

しばらくはお互いに無言だった。

先に彼女が言葉を発したのは、アパートの階段を降りてからだった。

「彼の部屋にいた理由を、聞かせてもらいましょうか?」

単刀直入だ。

よからぬ関係であることを疑われるのは仕方がないが、悪いことをしたとは決まっていないのだから、責めるような言い方をするのはやめてほしい。

今まで教師に対してこんな感情を抱いたことはないけれど、私は彼女が嫌いかもしれないと思った。

「私、朝から生理痛がひどくて、早退させられたんです」

「今は大丈夫なの?」

「はい。薬が効いています」

「それで?」

「駅で向かい側ホームのベンチに奥田先生を見つけたんですけど、電車が来ても起き上がれないくらいに具合が悪かったみたいで。病院に行くお手伝いをして、ここまで送り届けました」

すべて事実だ。

何ひとつ嘘はついていない。

私たちにはやましいことなどない。

「そう。情けない同僚でごめんなさいね」

彼女に謝られる筋合いはないのだが、納得はしてくれたようでひと安心……ということでいいのだろうか。

「いえ。困ったときはお互い様ですから」