それでもなんとか、悪い方向に進まないよう最善を尽くさなければ。
淳一にあらぬ疑いがかからないように。
「奥田先生、中野先生がいらっしゃいました」
私はあえて生徒モードで話し、この緊急事態を彼へ伝達すると同時に、彼と特別な関係ではない感じを演出する。
あくまでたまたま淳一と居合わせ、あまりに具合が悪そうだったから現在に至るのだと。
しかし、それについて自分から喋りだすと言い訳に聞こえる。
中野先生は私を責めるような険しい表情になった。
「学校に彼の様子を見に行くよう言われて来たんだけど……奥田先生は中にいるのね?」
「はい。熱が下がりませんし喉も痛そうですから、先生のお相手は難しいと思います。私も帰るところでした」
ヒヤヒヤする。
寝室の扉が開いた。
淳一が苦しげな顔で玄関の方へやって来た。
この状況を何とかせねばと思ったのだろう。
下手すれば淳一はクビ。
私もタダでは済まないかもしれない。
「中野先生……」
「具合が悪そうね。寝てて。様子はわかったし、私も彼女とおいとまするから」
「心配かけてすみません」
淳一と目が合う。
彼も下手に言い分けはしない。
私はおそらくこれから彼女にこの事態について追及されるだろう。
淳一は私を信じてくれている。
「椿。ありがとな。助かった」
「いいえ。お大事にされてください」