一気に空気が重くなる。
別れたばかりのとき、私はもしかしたら、一生淳一を好きでいるのではないかと思っていた。
いつまでもこの失恋の傷に喘ぎ、他の誰をも愛すことなく、いつか彼と再び愛し合える日を夢見るけれど、ついにはそれが叶わず人生を終えるのではないかと。
それがまさか、淳一より先に次の相手を見つけることになるとは思っても見なかった。
雄二とは正式な恋人同士というわけでないけれど、彼と付き合っていることがなんとなく後ろめたく思える。
そう考え至ると、雄二にまでうしろめたさが芽生えた。
「喉痛いよね。もう寝て」
「そうさしてもらうわ」
「片付けたら帰る」
「うん、ありがとう」
寝室を出て、ダイニングキッチンで使った食器を洗う。
洗った食器を干して、濡れた手を拭き、帰る支度をしていると、この部屋のインターホンが鳴った。
寝息をたてていた淳一が、その音で目を覚ます。
この部屋のインターホンはカメラ付きではないため、誰が来たかはわからない。
「出ようか?」
「うん。ネットショップ使ったから、宅配かも」
「印鑑は?」
「靴箱の上にある」
玄関の明かりをつけ、認め印を見つけてから扉を開けた。
「はーい」
すっかり宅配業者であると思い込んで警戒心を解いてしまっていた私は、扉の先に立っている女性の姿に硬直せざるを得なかった。
「中野先生……」
中野先生も目を皿のようにして驚いている。
「あなた……うちの生徒じゃないの」
私はなんて浅はかだったのだろう。
淳一の症状ばかりに気をとられて、この制服を着た女子生徒がこの部屋にいるということの意味を、忘れてしまっていた。
私は応答してはいけなかった。