記憶にある淳一の部屋と同じ匂いがする。
また付き合っている頃の幸せな記憶が喚起されて、切なさで胸が苦しくなる。
首を横に振り、歩みを進める。
間取りはダイニングとリビング兼寝室の二部屋。
見覚えのある家具もある。
ダイニングに着ていたシャツや靴下が脱ぎ捨てられている。
「じゅん、入るよ?」
一言声に出して寝室に入ると、淳一はベッドで布団にくるまっていた。
まだまだ顔色が悪い。
「悪いな。何から何まで」
「いいよ、これくらい」
ペットボトルのキャップを開け、手渡す。
「飲んで」
淳一はゆっくり体を起こし、受け取った。
「薬は?」
「何か食べてからだよ」
「食後の薬はいつ飲んでもええねんて」
喉が痛い淳一は、飲み物を飲むのすら辛そうだ。
食べるのが億劫な気持ちもわかる。
しかし喉を治すため、いや生きるためだ。
「だとしても、食べなきゃ。スープくらいなら飲めるでしょ? 食パンも買ったから、食べられそうなら食べて」
「はいはい」
私はキッチンでケトルに水を入れ、火にかける。
湯が沸くまでの間、脱ぎ捨てられた衣類を洗濯籠に入れたり、キッチンに溜まっているプラスチックゴミをまとめたりした。
お湯が沸くと、食器棚にあったカップに粉を入れ、お湯を注いでスープを作る。
喉が痛い淳一のために、3分の1ほど水を入れてぬるめに作った。