別に下心があるわけではない。
ただ、一人の知人として淳一が心配だから。
「相変わらず頑固やな。勝手にせぇ」
淳一はそう言って、ゆっくりと歩き始めた。
私は何かあったら手が差し伸べられる程度の距離を保ち、彼についていく。
約15分で、彼が住んでいるアパートに到着した。
見るからに単身者用の、わりと新しいアパートだ。
駐輪場に見覚えのあるバイクがある。
一緒に階段を上り、部屋の前までついていく。
私の役目はここまでだ。
いくら元カノでも、これ以上プライベートに踏み込むわけにはいかないだろう。
「栄養のあるもの食べて、ゆっくり眠ってね。薬も飲み忘れないように。それと、治るまでタバコは禁止」
私がそう言いつけると、淳一は「あ」と声をあげた。
「家に食料、皆無なん忘れとった」
私は淳一の財布を持ち、近くのコンビニへと走った。
……繰り返すが、これは、一人の知人として、彼が心配だから行っていることだ。
下心があるわけではない。
水分補給のためのスポーツドリンク、喉が痛くても食べやすい粉末スープと食パン、食欲がない時のためのゼリー飲料、そして彼が好きなお菓子を購入し、淳一の家に戻った。
「おじゃましまーす」
鍵のかかってないドアから部屋に入ると、さすがに悪いことをしている気分になる。
独り暮らしの男性教師の部屋に、勤め先の制服を着た少女が入室。
こんなところを学校関係者に見られてしまったら、彼の首が飛ぶかもしれない。