注射を嫌がるのに余力を使い果たしたのか、淳一は点滴が始まって10分で眠ってしまった。
久しぶりに見る寝顔を眺め、額に触れてみる。
当たり前だが、まだ熱い。
点滴が終わるまでの間、私は椅子と台を借り、今日の授業でやる分の問題を解くことにした。
だけど点滴の進度や淳一の様子が気になって、勉強はなかなか進まない。
今ここで彼にキスをしても、誰にもバレない……などと邪なことが頭をよぎり、彼の唇に意識が向く。
私は自分の頬を強めに叩き、目の前の数式に意識を戻した。
点滴が終わったのは約2時間後。
眠っていた淳一を起こして針を抜いてもらい、会計を済ませて病院を出た。
次は隣の薬局に行かねばならない。
「処方箋は? お薬手帳は持ってる?」
あれこれ世話を焼いていると、淳一がクスッと笑った。
「さくら、おかんみたいやな」
「失礼ね。まだJKなんだけど」
「……そうやな。JKやな」
そう呟いた淳一の表情が、まるでこの事実を口惜しんでいるように見えて、性懲りもなく胸が苦しくなる。
私たちはお互いを諦めた。
それぞれ別の人と新しい関係を築いている。
「心配だから家まで送るよ」
「いくつや思っとんねん。一人で帰れるわ」
「無理だよ。まだフラフラしてるじゃん」