ある日の放課後、学校の図書室に行ったときのこと。

朝読で読み終えた本を返却し、次の本を探しに本棚を巡っていると、どこからかひそひそ話が聞こえてきた。

「ハルカ、とうとうおっくんにコクったらしいよ」

趣味が悪いとは思うけれど、この人物の名を聞かされてしまっては聞き耳を立てないわけにはいかない。

私は本を探すフリをして、会話が聞こえる位置で息を潜める。

「コクるって言ってたの、本気だったんだ! で、どうなったの?」

「きっぱり振られたみたい。彼女いるんだって」

彼女……いるんだ。

私だって雄二と似たような関係だからそんな筋合いはないのに、ショックで胸が痛む。

「やっぱ中野先生と付き合ってるのかな?」

「ハルカには相手までは言わなかったみたいだけど、そうなんじゃないかな。教師って、出会い少ないから教師同士でくっつくって言うじゃん」

学年すら知らない女子の噂話だ。

想像が混じっているし、鵜呑みにするのは馬鹿げている。

相手が中野だろうが誰だろうが、私には関係ない。

私にだって、雄二がいるのだから。

新しい本は借りずに図書室を出た。

早足で教室へと向かう。

しかし、図書室を出てすぐの渡り廊下で、私の足は鉛のように重くなり動きが鈍くなった。

向かい側から淳一が歩いてきていたのだ。

どうしてこんなときに限って出くわしてしまうのだろう。

ここ最近、ほとんど見かけることもなかったのに。