あいつのことを想うと、何故こんなにも苦しいのだろうか。…別れてから10年も経つというのに。


『煙草買ってくる。』

俺は、なるべく自然な態度を装って玄関に向かった。

後ろで妻が何か言っていたが、気づかないふりをして家をあとにした。

程なくして近所の公園のベンチに腰をおとした俺は慌てて携帯の履歴から麻衣子を探し当てた。

『ごめん。風呂に入っててさ。こんな時間にどうした?』

『ごめん。迷惑だった?』

お互いの第一声が、相変わらず『ごめん』で始まっていたことに気づいた俺は心の中で苦笑した。

………

『…未來の声聞いたら元気になったよ。ありがとう、またね。』

携帯を切ったらセンターにメールがたまっていた。

全て、妻の…夕美からだった。

帰宅し玄関の戸を開けたと同時に夕美の拳が顔面に直撃した。

…夕美の発作が始まっていた。