「こないださ…父親に『馬鹿女』って呼ばれたんだ。別に何もしてないのに…なんで呼ばれたか話すと、マジでくだらないよ。」


朱美は缶を強く握った。思い出せば憎悪が増すだけ。


胸がざわつく、小さな悲しみと共に…





「あいつ…お母さんと話してる時、あたしの事『あの馬鹿女が…』って話してたの聞いたんだ。そんなこと言われて…父親だなんて思えないね。」

朱美は"自分の秘めた気持ち"は隠した。小さな悲しみを…。



当然だ。朱美自身、その気持ちに気付かないフリをしているから。


大嫌いな父親。

空気の様などうでもよい存在。勝手に死ねばと思える存在。



なのに『馬鹿女』と言われた事で、怒りと同時に悲しみも込み上げたのだ。


「あたしは何もしてない。怒られたとか、奴と喧嘩したとか。なのに『馬鹿女』呼ばわりだよ?普通、親なら子供のことを名前で呼ぶじゃないか。何気ない日常会話でだよ。つまり、奴にとってあたしの名前は呼ぶ必要が無いのさ。」