「確かにね。父親が嫌いなら、なにもそんな奴の為に自分の手を汚す必要は無いよね。あたしなら、勝手に死ねば?って思う。」


朱美は同じくビールの缶を開けた。

淡々と、あのテレビ画面のニュースキャスターの様に話を続けた。


「あたしは、子が親を憎む気持ちも分かるんだ。あたしにとっても父親は憎いよ。トーイにも、話したことあるよね。奴のうざさ…」


ピリッと冷たいビールが喉元を通り過ぎる。

渇いて、粘ついた喉に気持ちが良い液体。



「トーイは…幼い頃にお父さんを亡くしてるから、こんな事言うの不謹慎だけど…朱美は父親が嫌いなの。死んで構わないの。」


部屋は、まるで海底の様に静まり返る。

息苦しい重圧が、二人の身体にのしかかる。


静まり返ったこの部屋で、どちらとも口を紡んだままでいた。





先に、張り詰めた空気で言葉を発したのはトーイだった。




「でもさ、そんな事言うもんじゃない。だってさ親なんだぜ?」






朱美は目を綴じた。



(トーイは、悪くない。だって、親に苦しめられた事が無い。この気持ちが理解出来ないのは仕方ない。)



むしろ、理解出来ない事は良いことなのだ。


朱美は、それでも話を続けた。

理解出来なくて良い。

だけど『親を悪く言うな』なんて、あたしには綺麗事にしか聞こえないんだ。



譲れない。


あたしは…


まだまだ子供なんだから…