「どうしてさ。」


朱実は、長い長い自分の髪を、丁寧に櫛でときながら、鏡越しに話しかけた。


「何故、生まれた命は無くならなくてはいけないの?」


朱美の瞳に映る、その話し相手は、沈黙を守ったままだ。

構わず朱美は話し続けた。


「生きてる事が当たり前な様に、尽きるのも当たり前。なのに人は死に対しての実感を、これっぽっちも感じてないよ。ねぇ、死ぬって何?
″今を生きる″って、何?」


返ってくる筈ない返事を、朱美は静かに待った。


当然だ。

彼には、口が無い。


何か思ったとしても、それを相手に言葉で伝える術が無いのだ。


出来るならば、6本の弦でだろう。


音を連ならせるしか方法は無い。


何故なら、朱美の瞳に映る、鏡越しの話し相手は、ギターだからだ。